トランプ関税とプラザ合意の類似点
トランプ関税が世界経済に打撃を与えています。私はこれを1985年のプラザ合意と同じく事実上のドル切り下げを意味するものと考えています。トランプ大統領の保護主義的関税政策は、ドル高によって生じる貿易赤字を是正する間接的ドル安政策とも解釈できます。1985年のプラザ合意は、多国間協調によるドル安誘導政策でした。一方、トランプ関税は、国ごとに輸入制限を強化し、ドル高の弊害(=貿易赤字)を強引に是正する手法です。どちらも「ドルの価値の実質的な調整」を目的としているという点で、非常に類似しています。
プラザ合意後、日本は急激な円高(1ドル=240円→120円)に直面し、円高不況に苦しみました。プラザ合意の時にはその対策として輸出を増やすことより、内需を増やす政策を推進し、それが結果的に日本を空前の好景気をもたらしました。
その結果、1986~1990年:実質経済成長率4~5%超の「バブル景気」に沸きあがりました。日経平均株価は1985年末の13,000円台から1989年末には38,915円へと3倍近く上昇しました。確かに、「外需から内需へ」の転換は当時の経済ブームの導火線となりました。
ただし、副作用として資産価格(株・不動産)の過剰上昇(いわゆるバブル)を引き起こしました。過剰融資や投資加熱がその原因です。また、政府・日銀の対応が的確でなかったことも反省しなければなりません。日銀はバブルが起こっているにも拘らず金融引き締めが遅れてしまいました。政府の方は不良債権処理の対応を急過ぎ、貸しはがしを引き起こしました。結果的に金融バブルの崩壊と失われた30年を招いてしまいました。その副作用としてバブル景気を作り出したことを反省し、バブルにならない様に金融緩和と財政出動をすれば、トランプ関税によるピンチが日本経済復活のチャンスになるはずです。
バブルなき内需主導景気を作れ
佐藤正久参院議員の「新春のつどい」で高市早苗衆院議員と一緒にパネリストとして参加させていただきました
こうしたプラザ合意の時代の反省の下、トランプ関税に対応することが必要です。つまり、輸出競争を過度に追わず、賃上げ・消費拡大・財政出動を通じた実需主導の景気回復を目指すのです。これはまさに、外需の制約をチャンスに変える逆転発想です。これを実現するための政策的柱として以下の4点が重要です。
まずは財政出動(社会保障・子育て・教育・防災・減災・国土強靭化)です。単なる公共事業だけではなく、将来の需要を生む支出を中心に行うべきです。特に、30年以内に南海トラフ巨大地震が発生する確率は80%、今世紀中なら100%と言われています。これにともなう経済的損失は1400兆円以上とも言われていますが、事前に防災や減災の対策をすれば半減できると言われています。
大胆な金融緩和の維持と再強化も必要です。日銀は政策金利の引き上げをし出しましたが、時期尚早です。内需拡大をするためには金融緩和は必要です。特に必要なのは中小企業の資金循環の支援です。
所得主導の内需政策も必要です。特に賃上げを支援する税制(消費税廃止も含む)や最低賃金の引上げ、さらに所得補助(給付)なども積極的に支援すべきです。
バブルを避けるための制度的安全装置の設定も必要です。特に不動産や株価の過熱監視が必要ですが、中国人などの外国人が、観光地の土地を買い漁り地価を引き上げているとの情報も有ります。外国人の土地取得には規制が必要です。適正な信用創造のコントロール(例:貸出規律の強化)を行い、バブルを起こさせない注意が必要です。
こうした政策を実行すれば、1985年のプラザ合意が日本の構造転換のきっかけとなったように、2020年代の貿易秩序の変化(トランプ関税)は、内需再強化の再チャンスになり得るのです。
消費税の廃止
特に、輸出補助金とアメリカに指摘されている消費税を廃止すれば、トランプ大統領も大いに賛同するはずです。一時的に税収は減りますが、物価高対策にもなる上に、消費が必ず増えますから、結果的には景気は必ず良くなるはずです。更に、下げすぎた法人税率を元の40%に戻し、今後経済成長が期待されるデジタル分野やAIなどへの投資の即時損金参入を認める措置をすれば、税収も経済成長により大幅に増えることが期待できます。
現在の消費税は輸出企業には還付されるため、実質的な輸出補助金とアメリカから非難されていました。実際、年間7兆円を超える消費税が還付されていますが、その殆どが大企業の輸出にかかるものです。これを廃止することにより、輸出補助金という誤解を払拭 することができ、トランプ政権の貿易政策とも整合的です。また、消費者物価を直接引き下げることになり、事実上、家計の可処分所得が増えることになります。その結果、消費が拡大し、GDPを押し上がることになります。
我が国の国税収入の内訳は概ね、消費税が3割強、所得税が3割弱、法人税が2割弱で、この三つの基幹税で8割を占めています。一番大きいのは消費税ですが、これは納付をしているのは多くは法人ですが、実際に負担をしているのは個人なのです。実は、日本の消費税は事実上、外税方式(レジの様に支払の際加算される方式)が主流となっているため、完全に消費者に転嫁されているケースが一般的です。従って大企業などは100%消費税を消費者に転嫁していますから、消費税の納付はしていても負担はしていないのが現実です。
法人税率の適正化(23.2%→40%)と戦略的投資優遇
YouTubeチャンネル「週刊西田」で小林鷹之衆院議員と対談をいたしました
現在の法人税率は23.2%ですが、かつては基本税率が40%で法人地方税を含めると実効税率は50%近くありました。現在は地方税を含めても30%未満になっています。これは各国で法人税率の引き下げ競争が行われてきた結果です。法人税率を下げれば企業が投資をしてくれると期待して税率が下げられたのですが、内部留保が増える一方で投資は伸び悩む状態が続いており、その是正が必要です。そこで私は、法人税率を段階的に40%に戻すべきだと、自民党の税制調査会で何度も提案してきました。ただし同時に、AI・量子・半導体・核融合などの研究開発投資や国内生産設備のロボット化の設備投資の様な戦略的支出は「即時損金算入(全額経費)」を認めることも併せて行うべきと考えています。
この様にすれば、税収は確保しつつ、国家戦略分野の投資を強力に後押しできるはずです。
景気・税収・外交効果の三重奏
消費税を廃止すれば家計の可処分所得が増加し、個人消費が拡大することは確実です。これにより年間24兆円の消費税収は無くなりますが、法人税率のアップとGDPの拡大のより所得税や法人税が大幅に伸びることが予想されます。法人税率が事実上倍増するため現在20兆円近い法人税額は倍増するでしょう。消費税廃止により一時的に減収となる分については国債で補填することになりますが、投資や消費が大幅に拡大することによりGDPが拡大することは間違いありません。数年後には消費税額以上に税収が増えるでしょう。正に経済あっての財政を実現することになります。
消費税の廃止により消費者物価を直接的に引き下げることが可能となり、インフレを抑制することができます。また、法人税改革による公平な税制実現と、将来の成長分野への民間投資を誘導することができます。輸出補助金との批判を払拭し、アメリカとの通商交渉における日本の立場を強化でき、外交上での意義も大きいものとなります。消費税の廃止と、成長分野に資源を集中する法人税改革は、日本経済にとって令和の構造転換となり得ます。内需拡大・物価安定・成長分野への投資という三位一体の政策により、経済の再生と財政の健全化の両立が実現できるのです。
天動説から地動説へ
MXテレビ「東京ホンマもん教室」に出演し藤井聡先生と対談いたしました
失われた30年の間にGDPは減退したまま成長せず、税収は落ち込んだままの状態が続いてきました。一方で社会保障料の増加は続き、それを支えるために消費税が2度も値上げされました。地方交付税もインフラ整備も抑制が続き、地方は衰退しました。この原因は全て「財源が無い、予算が欲しいなら負担を増やす」という財政観を正しいと皆が信じこんできたからです。
しかし、これは考える順序が逆さまなのです。何故、GDPが減退したのかをまず考えるべきなのです。その原因は明らかに投資不足です。それは少子高齢化が原因だと言う人がいますが、そうではありません。投資不足が少子化を作り出しているのです。就職氷河期世代が結婚できず子どもを産めなかったのは、バブル後の経済政策が市場原理主義に傾倒し、雇用や需要を増やすための財政政策を否定してきたからです。公務員の数を増やしてでも正規雇用を守るべきだったのに、逆に公務員の定員を減らし非正規雇用を増やしたのです。政府が国債を発行してでも正規雇用を守るべきだったのに、逆に税収が少ないからと、それをせず、小さな政府を目指した結果、次の世代が生まれなくなった。それがGDPを減退させた根本的原因です。
税収を増やすためには、増税ではなくGDPを増やすことが正解なのです。そしてそのためには官民とも投資を増やすことが正解なのです。にもかかわらず、この30年間は逆に官民ともに投資を減らすことばかりに励んできたのです。「経済あっての財政」という掛け声とは逆に、「財政あっての経済」と言う政策ばかりしてきたのです。
「税金あっての財政」は長年信じられてきましたが謂わば「天動説」と同様で間違いなのです。事実は「経済あっての財政」です。経済、つまり国民を富ませれば税金は増えるということです。これが真実であり令和の「地動説」なのです。
樋のひと雫
-アンデス残照-
羅生門の樋
最近の世相の動きは速い上に、激し過ぎて活字世代には付いて行くのが厳しいです。まぁ、米国大統領の話ですが…。就任した途端にコロンビアに不法移民を強制送還する際に軍用機を使い、コロンビア大統領が拒否すると関税をチラつかせ要求を呑ませると、次は、メキシコとカナダに喧嘩を売るわで、前評判通りの行動です。しかし、メキシコは不法移民や麻薬カルテル等の問題で分かる気もしますが、カナダは5EYESの同盟国で強固な絆を築いる国です。「何で?」と思っているとパナマには運河通行を巡って更に強硬な申し入れをしています。パナマ運河の両太洋の入り口は香港資本が押さえていますので、米国の空母打撃群の活動にも支障が出ます。あからさまに、中国のパナマ進出を阻止する施策を押し付ける米国の外交にも驚きです。正直この要求を呑むとも思えませんでしたが、パナマはあっさりこの要求を呑み運河通行の便宜を保障しました。
このニュースを聞いた3日後のコチャバンバの仲間達とチャット(古いですね!)の際もこの話題で盛り上がりました。ボリビアもエボ時代から中国の経済進出が激しく様々な摩擦も起きていました。だからと云って、米国が良いという訳でもありません。「憧れは有るが自国の裏庭然とした傲慢な米国には反発もある」という複雑な心情です。「ニュースを聞いた時は、再度のパナマ侵攻もあるか」と全員が思ったのですが、30数年前のパナマ侵攻の悪夢が未だ残っているのですかね。あの時も国の最高指導者であるノリエガを、麻薬犯罪で自国の裁判に掛けるという名目でした。その際にも思ったのですが、中南米への傲慢ともいえる内政干渉や「裏庭外交」の感覚は今でも続いているのでしょうね。
その後の動きは私の様な素人には理解できないことだらけです。対中国との関係で高関税を付すと云うのは理解できますが、EU諸国にも相互関税を持ち出し不必要な軋轢を生むと云うのが不思議です。ポルシェの戦車製造に代表される様にドイツは軍需産業の強化に舵を切り、英・仏・独を中心としたNATOの再編強化(米国頼むに足らず)を生み出しました。明らかに現在のウクライナ戦争後に対ロシア戦争が起きることを見据えた動きです。ハンガリーを除くNATO諸国は対ロシア戦を覚悟したという事しょう。NATO負担金が背景にあるのでしょうが、米国からの兵器調達を停止するなどの動きは、軍需産業だけに止まらず、米国の今後の世界戦略に大きな禍根を残すことになるでしょう。
自国ファーストはどの国もそうでしょうが、特に政治の中心概念が「ディール」や「傲慢外交」では誰も付いて来ないと思うのですが…。さて今後、中国の「戦狼外交」と米国の「ディール外交」の闘いがどのようになっていくのか、心配しながら見届けたい気もします。