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第60号

2009年10月01日発行

自民党よ、保守政党としての原点に戻れ

参議院議員西田昌司

麻生総裁の辞任表明を受け、私は次期自民党総裁には、平沼赳夫衆院議員が最適であるとの思いから、同志の国会議員とともに、平沼議員の復党運動を行って参りました。
残念ながら、それはかないませんでしたが、その趣旨は次に示してある通り、自民党が保守政党としての本来の姿に戻ることが、党再生のための第一歩であるという思いからです。
尚、総裁選に関して、私が立候補を画策しているかの様な報道がありました。私が関知しないところでそのような動きがあったようです。光栄なことではありますが、元より私がその任にあるはずがなく、報道は事実ではありません。
私は、平沼議員の復党が不可能となった時点で、直ちに地元の谷垣禎一衆議院員の推薦を行い、私の思いを託すことに致しました。

敗北原因の総括

自民党再生のためには、今回の大敗北を真摯に受け止め、その原因がどこにあるのかをしっかり総括しなければなりません。個別には様々の要因があったと考えられますが、根本的には一連の構造改革に対しての総括がなかったことが原因だと私は考えています。そもそも構造改革とは何だったのでしょうか。私は次の様に考えています。官から民へという言葉が示す様に、構造改革論は行政の効率化であり、小さな政府論に通じるものです。官による行政の無駄を廃し、民間手法による効率的経営を行うということを目的とした考え方でしょう。こうした考えの下に様々な行政改革が行われたのですが、郵政民営化はその象徴だったのです。また、この時期同時に言われた地方分権論もこうした構造改革論と軌を一にするものと私は考えています。地方分権論は、国から現場に近い地方に権限と財源を渡すことにより、効率的な行政ができるはずだと推進されてきました。つまり、構造改革論と同じく、行政の効率化を目的とするものです。そして地方分権をすれば地域間競争に拍車がかかり、さらなる効率化が進むと考えられてきたのです。そして、こうした考え方の下、民間においても規制緩和が行われ、市場原理主義による経済の効率化が行われてきました。つまり、構造改革の本質は、社会全体を競争原理により効率よくするということでした。

構造改革の背景

こうした構造改革論は、東西冷戦の終結により、旧東側諸国も含め、世界が一斉にアメリカ型の社会や経済の仕組を取り入れようとした動き、いわゆるグローバリズムと軌を一にするものです。これは日本だけの流れではありませんでしたが、その当時の日本はバブル崩壊により、全く自信をなくしていた時代でした。そのため、政治経済や文化等あらゆる面でグローバリズムに呑み込まれてしまったのです。いやむしろ、国民皆がこぞってその流れの中に飛び込んでいったと言っていいでしょう。

構造改革のもたらしたもの

しかし、急激な規制緩和、市場原理主義、行政予算の削減の結果、社会はいわゆる勝組負組に二極化されてしまいました。自己責任や市場原理という言葉がもてはやされましたが、それは詰まるところ、利己主義を社会に蔓延させただけのことでした。家庭や地域社会も経済ルールの中に取り込まれ、破壊されてしまいました。一部の勝組といわれる人々の中では、さらに多くの財と成功を求め、強欲民主主義が幅をきかせました。しかしその一方で、帰るべき家庭と故郷を失い、希望をなくして社会に不安を持つ人も多数出現してしまったのです。社会には不安と不満、そして欲望が渦巻き、国民の心はバラバラになってしまったのです。この不満のマグマが一挙に爆発したことが、今回の自民党大敗北の根本的原因であると私は考えています。麻生内閣では、せっかく構造改革からの方向転換を行いながら、国民に対してその十分な説明ができなかったばかりか、その総括が党内でなかったため、自民党がバラバラになり、それが国民の怒りに拍車をかけることになりました。正に自民党は自爆をしてしまったのです。従って、まずこうした一連の改革に対し、改めて総括を行う必要があります。

? 再生のための方策
<結党の精神に戻り、真の保守政党を目指す>

先に述べた通り、今回の大敗北の原因は自民党自らがグローバリズムに呑み込まれ、社会の秩序を破壊したことが原因です。換言すれば、自民党は保守政党でありながら守るべき国柄を示せなかったということです。自民党再生の第一歩は、保守政党として我々が守るべき国柄は何かということについて、明確に示すことから始めなければなりません。これについては当然一言で語り尽くせるものではなく、党を挙げて国民とともに大いに議論をしなければなりません。ところがこの国柄を論じることが戦後の日本ではタブーになっていたのです。その結果、日本人は自らのアイデンティティーを失いグローバリズムに呑み込まれてしまったのです。

歴史文化伝統の継承

その原因は、言うまでもなく敗戦により歴史観が分断されたためです。戦後60年以上たった今こそ、タブーを恐れず、先の大戦についての議論をすべきです。そのためには、当然開国から維新に至る経緯についても正しく示すことが必要です。近現代の歴史を、タブーを超えて議論することにより、次代に伝えるべき文化や伝統が見えてくるはずです。

自主的で主体的防衛外交政策の確立

グローバリズムと距離を置きながら、国柄を守るためには、それを担保する防衛政策と国民の覚悟が必要です。日米安全保障体制を堅持しながらも、対米依存ではない自立した防衛のための議論と装備が必要です。特に軍事的に膨張する中国、北朝鮮には毅然と対応する必要があります。

経済・財政

行政の効率化を目指す構造改革が声高に叫ばれたもう一つの理由は、財政再建という課題があったからです。無駄を削減することは必要ですが、無駄とは何かということについてしっかりとした議論をせずに構造改革が叫ばれた結果、行政は大混乱に陥ってしまいました。今日、民主党が主張する無駄を廃すれば十数兆円の財源が出るはずだというマニフェストが、荒唐無稽であることは言うまでもありません。しかし、自民党が言い出した構造改革論にも同じような過ちがあったわけです。そもそも財政再建を論ずる以上、我が国の国民負担率が先進国中、極めて低いという事実を共通の認識にしておく必要があります。仮に国民負担率を10ポイント上げれば、十分な社会保障を行った上でも財政再建ができるはずです。しかも10ポイント上げても依然として先進国中最低レベルの負担率なのです。国民負担率増加論では選挙に勝てないという思いから、この議論を避け、予算削減によって財政再建をしようとしたところに無理があったと考えるべきです。

リーマンショックの教訓

昨秋のリーマンショックは、グローバリズムの破綻を証明するものでした。ここから得られる教訓は、市場原理主義は世界経済を破壊するということです。グローバルマネーをいかにコントロールするかが、世界共通の課題となることは明らかです。グローバルマネーから如何にして国民経済を守るか、それがこれからの世界経済の大きな問題です。そのためにはグローバル市場ではなく国内市場にいかにして資金を回すかが重要な視点になるでしょう。 世界中に市場をもつ企業にとっては、国内外問わず自由に投資できる環境がある方が有利であるように思えます。しかし、その結果がもたらすものは、国内経済の空洞化です。なぜなら、国民の富を世界市場に任せれば、先進国は成長率が低いため、資金は成長率の高い海外に流出するからです。そしてそれが世界を巻き込んでバブルを引き起こしやがてはじけ散る。これを避けるためにはグローバルマネーを如何にコントロールするかがリーマンショックから学ぶべき教訓です。そのための方策のひとつとして国民負担率を上げ、それを社会保障や地域づくりに支出するということは、グローバリズムから国民経済を守る上でも有効な手法です。なぜなら、市場に任せておくだけでは国民の富が必ずしも国内に還元されるとは限りませんが、国民負担率を上げた部分は必ず国内に還元されるからです。このことを我々は共通認識すべきです。

地方自治の充実

私は財源や権限を国から地方に渡すだけの分権論、そしてその延長線上にある道州制には反対です。 そもそもこれらの議論は、国は国、地方は地方のことを考えれば良いという発想が基となっていますが、それは利己主義を正当化させるようなものです。事実、国は国だけでは成り立たないし、地方も地方だけでは成り立ちません。まずこうした利己主義に基づいた発想はやめるべきです。その上で国や地域が相互扶助する仕組みを作るべきです。そのためには地方独自財源の増加より、地方交付税の増加の方が正しいはずです。なぜなら、地域によって財源が偏在し、地理的条件も異なる現実を放置したまま、国の財源や権限を地方に渡し道州制にすれば、地域格差が拡大するのは自明の理だからです。大切なことは、生まれ育った故郷で家族や友人と共に何代にもわたって住み続けられる仕組みを、国と地方が協力して作ることです。故郷を守ろうという愛郷心は何代にもわたって暮らすことが前提であり、それが自治の精神の基です。単なる財源や権限の移譲論では自治の精神は育たないのです。

人口減少問題について

まず確認すべきは、地球全体では人口増加となり、食料や資源、エネルギー等の確保が、今後世界で最大の課題となるということです。 こうした時代に日本の人口が減少するということは、確保すべき食糧、資源、エネルギーが少なくて済み歓迎すべきことなのです。逆に人口増加を前提とした成長型社会は、早晩破綻を来すことになります。成長型社会からの脱却こそがこれからの社会の真の課題です。 この点からも日本のおかれている状況は必ずしも不利ではなく、むしろ全世界に先駆け、脱成長型社会を構築できるチャンスなのです。そして、そのモデルを示すことが、これからの世界に対して日本ができる最大の国際貢献なのであり、世界に真の平和をもたらす鍵でもあります。

草の根保守の再結集

自民党は衆院選の大敗北を受け、自信を喪失しています。しかし、大敗したとは言え、小選挙区では2,700万人を超える方が自民党候補に投票して下さっているのです。この方々は、それぞれの地域で家庭を守り、地域を守る方々です。我々自民党が、真に耳を傾けなければならないのは、こうした方々の声なのです。 故郷や家族を守るために真面目に働いてきた方々が、この間の改革騒動の中でどうなってしまったのか、よく考え反省すべきです。この方々が自民党に望んでいるのは、自民党が真の保守政党として、自分たちの家族や故郷、そしてその延長線上にあるこの国を保守するための政策であり、そのための覚悟なのです。そしてそれを今、我々は試されているのです。    

瓦の独り言
秋の夜長に長久堂のきぬたをたべながら
羅城門の瓦

「み吉野の山の秋風さ夜更けてふるさと寒く衣打つなり」参議雅経:百人一首 「声済みて北斗にひびく砧かな」芭蕉:都曲砧(きぬた)は俳句では晩秋の季語になっています。「砧を打つ」とは、麻織物などを柔らかくするための加工の一種で、砧という道具をつかって織物を打つ作業です。また、絹織物などは光沢のある着物にするために棒状に巻いて砧打ちを行いました。
 では、なぜ「砧」が秋の季語になって、秋の夜長のもの悲しくも、その音を聴くもののあわれを誘うのでしょうか? 昔、庶民は麻織物しかきられなかった。麻の織物はゴワゴワして、織目も粗く、夏は涼しくて良いのですが、冬になると風通しが良すぎて困る。そこで麻織物に砧を打って、織物の目を詰めて冬に備えたとか。
砧打ちは、柔らかくするだけではなく、冬支度がメインであり、「あ~もうじき冬がくるんだな」と哀れを誘うところからきているのではないかと瓦は考えています。
 さて、京都の和菓子に長久堂の「きぬた」があります。お店が四条河原町から消えてしまいましたが、上賀茂にありました。何のへんてつもない白い棒菓子で、和三盆がまぶしてあります。しかし、中を切ると綺麗な緋色の羊羹が飛び出し、その周りを白い求(ぎゅう)肥(ひ)がバームクーヘン状に巻かれていて、いかにも絹織物をイメージさせてくれます。明治初期のパリ万国博に川島織物の綴れ織物と一緒に出品され見事に受賞し、それから宮内庁御用達になったとか。
 ここに出てくる2つの「砧(きぬた)」はどうもイメージが異なっているような気がします。しかし砧打ちは元は庶民の手作業だったはずです。それを長久堂の初代「長兵衛」はふるさと丹波で絹を柔らかくし、艶を出すための砧を打つ音を聴き、銘菓「きぬた」を思いついたとか。そこには京都人の感性がキラリと光っているような気がします。
京都は衣食住の文化を各地に発信し「くだらないモノ・・」といった文言まで出来ています。しかし、京都は地方にある事・生業を吸収し、それを京都なりにアレンジをし、また各地に発信するといった大きな文化の加工場もしくは「るつぼ」ではないのでしょうか。東京の百貨店で京野菜がブームになっています。しかし、その品種にはルーツが京都以外にあるものも存在する、と聞き及んでいます。
 長久堂の「きぬた」を食べていたら、いつの間にか文化論を振り回している瓦ですが、政治が大きく変わろう(?)としていても、京都市民の文化力はそのままであり、それを政治の流れに左右されたくないという思いは瓦だけではない、と思っています。

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