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第104号

2020年10月25日発行

菅内閣の課題

参議院議員西田昌司

安倍総理の突然の辞任

自民党京都府連として西村大臣に新型コロナウイルス感染症に係る緊急要望をいたしました

 8月28日、安倍総理は記者会見で体調不良により総理を辞することを発表されました。このことを受け、9月14日に自民党総裁選挙が行われ、圧倒的多数で菅新総裁が誕生いたしました。そして臨時国会が召集され、9月16日に菅内閣が正式に発足いたしました。発足から、1カ月余りですが、縦割り行政の解消や携帯電話料金の引き下げ、デジタル庁の開設など、矢継ぎ早に政策を発表されています。
 マスコミ各社の世論調査は70%を超える支持率があるとも報道されていますが、この高い支持率に一番驚いておられるのはおそらく菅総理自身でしょう。その背景には、安倍政権に対する評価の見直しがあるとわ私は思っています。安倍内閣の支持率は、コロナ禍の中で不支持率が支持率を上回る状態が続いていましたが、辞任発表後は大幅に回復しました。
 これは、コロナ感染の不安だけでなく、外出自粛によるフラストレーションや経済の低迷など、国民の中に溜まった不満が安倍政権への批判につながったからでしょう。しかし、安倍総理の辞任の報に接し、安倍政権を冷静に評価すれば、民主党政権の混乱の時代とは比べ物にならないほど日本の国力再生に貢献した、と国民は感じたのではないでしょうか。
 その安倍政権を内閣官房長官として支えてきた菅総理に対する期待が、今回の就任時からの支持率の高さに表れているのだと思います。その期待に応える働きを私も期待したいと思います。

縦割り行政の解消

 菅総理は、ダムを管理している責任者がダムの種類によって違い、その結果、洪水を防げない事態になっていると指摘しました。例えば、発電や用水などの為の貯水は、利水する側の権益があるため、洪水に備える為でも簡単には事前排水ができません。しかし、一旦洪水になってしまったら、利水をする側の生命や財産も消滅する危険があります。ダムを管理する側の個別の利益よりも、真に国民の生命や財産を守ることを考えたダムの運用が必要だ、と菅総理は力説されていました。まさに縦割り行政の解消が必要だと言うのです。
 これはその通りだと、私も思います。そうした個別の利益を超えた全体の利益を調整する仕組みが必要なのです。しかし、現実にはこれがなかなか難しいのです。それを象徴するのが、内閣府の巨大化です。
 行政機関は各省庁別に権限と責任が分担されています。しかし、中には省庁間を超えて調整すべき仕事なども多数有ります。先に述べたダムの管理もこの対象になるかもしれません。そこでそうしたものは、各省庁から内閣府にその権限が移管され、最終的に内閣総理大臣がその責任者になっています。こうしたことがこの20年にわたり行政改革のもと行われてきました。あらゆることが内閣総理大臣の権限で行われる様になりましたが、現実には、内閣府特命担当大臣が任命されその任にあたるのです。防災担当大臣や少子化担当大臣、最近ではオリンピック担当大臣など次々に特命担当大臣が増え、現在では約20人の大臣のうち10人が特命担当大臣になっています。
 内閣府の所管する事項を国会で審議するのが内閣委員会、その内閣委員会の所管する事項を党内で議論するのが内閣部会です。所管事項が増えすぎたため、党の内閣部会は第一と第二の2つに分割されましたが、国会の内閣委員会は分割できません。そのためこの委員会には多数の法案が集中するため法案審議は超過密スケジュールです。
 もともと縦割り行政を排除するために作られた内閣府でしたが、特命担当が増えた結果、内閣府自体が肥大化して、機能不全に陥ろうとしているのです。こうしたことを考えれば、縦割り行政の解消のためには、省庁再編など組織をいじることよりも、そのトップに立つ役人や政治家が、国民目線に立ち、その都度適切な判断をする以外ないのです。この20年間行ってきた省庁再編などの行政改革は失敗だと言えるでしょう。菅内閣にはぜひこの点を理解した上での改革をしていただきたいと思います。

デジタル化の推進

デジタル社会推進政治連盟主催の政策勉強会において現代貨幣論(MMT)について講演いたしました

 菅内閣のもう一つの目玉がデジタル化の推進です。コロナ禍の中で、リモート勤務やリモート授業の機会が増えましたが、それに必要なインフラが十分でないとの指摘もあります。また、給付金の申請等の行政手続もデジタル化が進んでいれば、もっと敏速に対応できたのではないかという批判もあります。確かに、日本はデジタル化の面ではかなり遅れているように思います。
 私は、税理士の業務もしていますので、申告の面でのデジタル化の遅れは痛感していました。例えば、電子申告は国税では実現していますが、地方税では十分ではありません。地方によっては、電子申告で受け付けた書類をもう一度手入力で処理をしているところもあると聞きます。これではデジタル化で仕事の効率化どころか、無駄を作り出しているに過ぎません。
 こうしたデジタル化の遅れの原因は、結局は予算不足ということです。日本は本来、デジタル化の技術の面では、最先端を行く先進国です。ところがそれを普及させるには、そのためのインフラ整備が必要なのです。電子申告が地方で普及できない最大の原因は、電子申告を受け入れるためのソフトウェアを地方自治体が持っていないことです。その整備には多額の資金を投じてソフトウェア開発をしなければなりませんが、財政力が小さな自治体には到底無理なのです。然らば、総務省が、そうしたソフトウェアを自ら開発して、各自治体に無償で供給すれば良いのですが、財務省から財政再建という圧力がかけられ予算化できないのです。
 せっかくの技術力を持っていながら、予算がつけられなかったために日本はデジタル後進国になってしまったのです。今回、菅総理が肝煎りでデジタル化を推進するなら、まずはそのための予算を確実に増やす必要があります。

未だに新幹線ネットワークができない理由

 予算不足でデジタル後進国となった日本ですが、同じことが新幹線ネットワークについても言えます。昭和39年10月1日、日本は世界に先駆けて高速鉄道の技術を確立しました。その後、昭和48年には全国に新幹線ネットワークを構築するため、11の基本計画が策定されましたが、そのほとんどが未だに建設の目処は付いていません。その理由は、国鉄の破綻と政府の財政再建優先の姿勢です。これが、あらゆるインフラ整備を遅延させてしまったのです。全国に新幹線のネットワークを建設するのには30兆から40兆円の建設費が必要だと言われています。莫大な金額のように見えますが、完成まで十数年かかることを考えれば、毎年の予算額はたかだか3兆円程度です。今年のコロナショックのために補正予算は一次二次合わせて約60兆円であることを考えてみれば、決して法外な予算額では無いと理解していただけるでしょう。
 普段なら、これだけ大きな規模の補正予算は、財務省の猛反対に合っていたはずです。しかし、さすがに今回のコロナショックでは財務省も正面から財政出動を否定することはできなかったのです。
 彼らが財政出動に頑なに反対してきた理由は、「孫子の代に借金をつけ回すな」と言うことに尽きます。したがって、今回のコロナショックのための補正予算は仕方がないとしても、いずれは、その返済のために税金を上げるか他の予算を減らすかどちらかを要求してくるでしょう。しかし彼らの主張に最早、合理性はありません。

国債は国家の資本金である

京丹後はごろも陸上競技場リニューアル完成式典に出席し、ご挨拶いたしました

 今回のコロナショックで政府は様々な財政政策を実施しました。その一つに劣後債の導入があります。劣後債と言うのは返済期限が最も後になる債券と言う意味です。例えば10億円を借りても、利息の支払いだけで元金の返済は10年後や20年後など、かなり後で払うというものです。これにより、企業は元金返済の必要が事実上なくなりますので、会計上も劣後債は負債ではなく資本として取り扱われることになります。その結果、 経営者はコロナ禍においても資金繰りのリスクから解放され、安心して企業の経営をすることができるのです。
 実は、国債はまさにこの劣後債と同じ性質のものなのです。国債を発行すれば、それは国家の借金であり、孫子に借金をつけ回すべきでないと、財務省は必ず言います。しかし、現実には国債の償還は税金でしているのではありません。そのほとんどは、新しい国債を発行することにより古い国債の償還をしているのです。いわば古い国債と新しい国債を交換しているのです。
 つまり、国債の償還はせず利払いだけをしているのが現実なのです。孫子の代も利払いだけで、元金の返済はしていないのです。
 そしてこの事実を見れば、国債は劣後債とそっくりであることがわかります。劣後債が事実上資本金として扱われるのは、返済を必要としないからです。利払いするのは配当金の支払いと同じことですから、劣後債はほとんど資本金と同じと言って良いでしょう。
 国家にとって国債は、この劣後債よりもさらに資本金の性質を持つものです。劣後債は一応償還期限の定めがありますから、その時になれば元金の返済が必要となる可能性はありますが、国債に関しては償還期限が来るたびに新規国債を発行すれば良いだけで、それを制限するような法律は何もありません。正に、元金の返済を要しない国債は、国家にとっては資本金なのです。

安倍政権の失敗に学べ

 約8年前、安倍政権が誕生した頃の日本は、まさにデフレのどん底でした。無駄削減に代表される民主党政権の緊縮政策がデフレを加速させたからです。それに反旗を翻したのが安倍政権です。異次元の金融緩和、機動的な財政出動、民間投資戦略、この3本の矢でデフレからの脱却を目指したのです。しかし、現実に実行されたのは異次元の金融緩和だけで、財政出動や民間投資は増えませんでした。むしろ、三党合意があったとは言え、完全にデフレから脱却する前に2度にわたり消費増税をしてしまったのです。「経済再生なくして財政再建なし!」と訴えた安倍総理でさえ、国債残高が増えることに反対する財務省を抑えきれなかったのです。
 しかし、コロナショックによる経済対策は国債の増発でしか賄うことができません。そしてそれを実際に行っても、何ら問題が発生しないことが明らかになりました。菅総理には、こうした事実を踏まえて、大胆な財政出動をしてコロナショックからの回復に全力を挙げていただきたいと思います。

樋のひと雫
-ボリビア残照-

羅生門の樋

 日本では大統領選と云えば米国のそれを指します。11月の選挙に向けて、「此処はどこ?」と思えるぐらいに毎日TVで米国大統領選を報じています。多くの米国政治の専門家がトランプだのバイデンだのと人柄や日々の所作まで喧伝しています。子供の頃の行動や家族関係まで曝け出す、その報道もどうかと思います。日本の命運を握る最大の同盟国の首長であれば致し方ないのかもと思いますが、我々には選挙権がないので所詮は他山の石とするしかないのですが。
 大統領選と云えば、ボリビアでも大統領選がこの18日に行われます。他山の石どころか、遥かアンデスの石としか見えないのですが…。まあ、私には身近な話です。これは前大統領のエボ・モラーレスが憲法の規定を無視し、不正投票で続投したことが原因です。市民が蜂起し、警察や軍部の支持も失いメキシコを経てキューバに逃亡しました。現在はアルゼンチンにいて大統領選をコントロールしようとしているとか。本人は未だに権力をわが手にもう一度と画策しているつもりかもしれません。しかし、過去には怒った大衆が現職大統領を官邸前の公園の街灯に吊るした国です。昔とは事情が違うでしょうが、ラテンの血は流れています。そろそろ彼自身権力の亡霊とは手を切るべきだと思いますが…。
 議会によって暫定大統領が選ばれ、大統領選となるはずがコロナの蔓延で時期がずれました。今ようやく新たな大統領を選ぶべく選挙が準備されています。因みに、暫定大統領は
出馬しません。出れば初の女性大統領が誕生した可能性もあったのですが、残念です。まあ例によって、似たり寄ったりで一度目で過半数は取れないでしょうから、決選投票になります。選挙騒ぎは続きます。別段、コロナが落ち着いたわけではありません。相変わらずマスクや消毒アルコールと云ったものは手に入りません。この選挙を契機として、何とか日常を取り戻そうと努めています。
 ボリビアでは、大統領選と云えば異常に熱くなります。日本のように選挙カーが走り回るわけでもないのですが、3人集まれば候補者の話題になります。喧々諤々の話し合いが、取っ組み合いになることも珍しくはありません。国のトップを選ぶ直接選挙を経験したことのない身には、何故これ程熱く成れるのか、不思議な気もします。大統領が替われば、大臣も代わります。大臣が替われば省庁のスタッフ全員が代わります。門番まで替わると言われています。選挙の論功行賞で省庁の役職が割り当てられます。地方の自治体も同じです。村の役場まで総入れ替えです。産業の乏しい国では、省庁が最大の雇用先です。職を得ることに選挙が直結します。私がいた省も3人の副大臣が3ヶ月毎に代わりました。当然彼らの担当部局の人間も代わります。1年間ほどは人事の交替が毎日のようにありました。ある時大臣との会談が有り会議室に入ると、お茶を出してくれた子が1週間前まで私の部屋を掃除していた女の子でした。驚いて聞くと大臣室の渉外スタッフになったとか。清掃の制服を紺のスーツに替え、廊下を闊歩していました。
 まあ、熱くなるのは当たり前かもしれません。そのため、投票の2日前から酒の販売は禁止され、24時間前はレストランやバーでも飲酒禁止の措置が取られます。レストラン等の店には警察官が査察に来ます。違反すれば店には1週間ほどの営業停止処分が科せられます。しかし、店も客も良くしたもので、前夜は特別の部屋が用意され、飲む客はそこに通されます。警察が来ると息を潜め、目で会話しながらワインやシンガニを傾けます。これが結構面白くて警察官がいる10分間ほどに飲むワインの味は、特に美味でした。警官が出ていくと全員で「Salud!(乾杯)」。外では警官が振り返りながら苦笑していました。

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