建前から本音へ
KBS京都「京biz X」に出演、北陸新幹線ルート決定についてお話しました
昨年のアメリカ大統領選挙は大方の予想に反して、トランプ氏の勝利に終わりました。大統領選での移民やイスラム教徒への過激な発言は、アメリカの内外で波紋をもたらしています。多様な価値観を認める自由の国であったはずのアメリカが、移民を否定し世界より自国の利益を優先するという政治姿勢には反対の声が国内からも上がっています。大統領選挙が終わったにも拘らず、新大統領を否定するデモが行なわれる等、まるでアメリカが二分されたかの様です。
この背景には、アメリカの本音と建前が見え隠れしています。自由社会はもちろん大切だが、そのためにアメリカの国益が失われてはならない。アメリカの国益を守ることが大統領の責務だというアメリカ人の本音の代弁者として、トランプ氏は大統領に選ばれたのです。既存の政治家が言えなかった国民の本音を率直に述べることにより多くの国民の支持を得た一方で、建前を重んじる既存の政治勢力との対立を生み出すことになったのです。これをどう統合するかがこれからの課題ですが、私は、政治家の本音の言葉こそが、国民の心を動かす原動力なのだと改めて感じました。
TPP条約成立の意味
先の国会ではTPPの条約や法案が成立致しました。ところが、トランプ氏は大統領就任直後に直ちにTPPからの離脱を宣言すると明言しています。トランプ氏に翻意させるのは難しいと安倍総理も認めています。TPPの条約発効には日米の批准が絶対条件ですので、このままではTPPは発効しないことになります。
それならば国会での審議自体が無意味だと野党は主張しています。しかし、TPPの代わりに日米FTA(自由貿易協定)をアメリカが要求しTPP以上に厳しい条件を突きつける可能性もあります。それを防ぐにもTPP条約が国会でも認められた日本の限界点だということを示す必要があるのです。その意味ではTPP条約の批准は大事なことだったのです。
核の傘は存在するか
またトランプ氏は、日本も韓国も独自に核武装すべきであると述べたり、同盟国にアメリカの軍隊の駐留費の負担を要求する等、日本にとっても看過できない発言をしています。後にこの発言を取り消していますが、日本の安全保障の前提に関わることです。
駐留経費については既に思いやり予算という名で在日米軍基地職員の労務費、基地内の光熱費・水道費、訓練移転費、施設建設費など多額の負担をしています。この事実を知ればトランプ氏も納得するでしょう。問題は核武装です。
日本は世界で唯一の被爆国として、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという非核三原則を事実上国是としています。広島長崎の惨状を見れば核兵器の廃絶を訴えることは被爆国としては当然のことです。しかし、朝日新聞の報道によると世界で一万発近い核兵器が有ると言われています。保有国は米露英仏中のほかイスラエル、インド、パキスタン、そして北朝鮮も8発程度持っていると言われています。そして北朝鮮は、核弾頭を搭載可能なミサイルの発射実験を世界中の非難にも拘らず平気で繰り返しています。我国にとって大きな脅威であることに間違いありません。
アメリカなどの核保有国は核攻撃に対して報復核攻撃が可能です。このことが逆に核攻撃に対する抑止力となります。この報復核攻撃を日本などの同盟国が核攻撃を受けた場合にもしてくれるのなら、非核国でも核保有国並みの核抑止力を持てることになります。
こうした核の傘が有効に働くには、アメリカが必ず報復核攻撃をしてくれるという大前提が必要です。しかし、冷静に考えればこの大前提は次の様な問題をもたらします。同盟国への核攻撃に対して、アメリカが報復核攻撃をすれば、それがアメリカへの核攻撃を誘発することになります。同盟国のために開いた核の傘が、自国民への核攻撃のリスクをもたらすことになるのです。その様なリスクをアメリカはとるでしょうか。民主主義国家であればあるほど自国民にリスクをもたらす選択はできないでしょう。つまり、核抑止力は核保有国にしか存在しないと考えておくべきではないでしょうか。
岸内閣では核兵器を持つことは合憲と判断
京都国際マンガミュージアム開館10周年記念式典に麻生大臣がお越しくださいました。
(麻生大臣は『マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟』の最高顧問です)
昭和32年の参院予算委員会で岸総理は、核兵器を保有することは憲法違反かどうかという質問に対して、「自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実力であれば、私はたとえ核兵器と名がつくものであっても持ち得るということを憲法解釈としては持っております。しかし今私の政策としては、核兵器と名前のつくものは今持つというような、もしくはそれで装備するという考えは絶対にとらぬということで一貫して参りたい。」と答弁し、自衛権で核保有可能だが、不保持の方針を示しています。
この頃は東西冷戦の下、核開発競争が激化した時代です。自国民を守るために核兵器の保有を合憲と答弁したのは、報復核は自衛権行使の含まれるという意味です。先の臨時国会で民進党は、稲田防衛大臣が大臣就任以前に核武装について発言したことを、内閣不一致だと責め立てましたが、これでは核武装についての議論すらできなくなり、思考停止に陥ります。50年前の方が核武装についても政治の場できちんと議論されていたのです。
佐藤内閣の非核国三原則
昭和39年に中国が核実験に成功したことから、佐藤総理は核武装の必要性を感じ、ライシャワー駐日大使に申し入れをしたと言われています。アメリカは基本的に日本の核保有を認めていません。もし認めれば、いずれ日本から広島長崎の報復がされるかもしれないと彼らは潜在的に恐れているのです。翌年の日米首脳会談でジョンソン大統領は日本の核武装に反対しながらも会談後に発表された日米共同声明では「米国が外部からのいかなる武力攻撃に対しても日本を防衛するという安保条約に基づく誓約を遵守する決意であることを再確認する」ということが発表され、これによりアメリカの核傘に入ることになるのです。
しかし、先に述べた様に現実にアメリカが日本のために報復核攻撃をするかどうかは不明ですし、事実、すると明言したことは一度も有りません。先の大戦以後日本が一度も戦争に巻き込まれなかったのは、核の傘というより冷戦体制の下、米ソ超大国の過剰な核武装が逆に巨大な抑止力を生み、結果的に戦争を押さえ込んだのです。
しかし、その冷戦体制も終焉してから28年になろうとしています。米ソ二大超大国の対立による抑止力の時代からアメリカ一強時代になりましたが、その時代も終わろうとしています。事実、トランプ氏はアメリカはもはや世界の警察官ではないと言い放っています。
戦後の終わり
日本の核武装を容認したトランプ氏もその発言を取消しています。その真意は不明ですが、背景には先に述べたように日本の核武装をアメリカは恐れている節があります。しかし、今年の夏にはオバマ大統領が初めて広島に訪問し、原爆で犠牲になられた方の慰霊をしました。そして、この冬には安倍総理が真珠湾を訪れました。大東亜戦争の始まりと終わりの地に両国の首脳が訪問したことは正に真の意味で戦後が終わったことを印象付けるセレモニーでした。これを契機に両国民のわだかまりが解消できればと願っています。アメリカが日本への猜疑心を払拭し日本が自立することを認めることと、日本が対米自立を目指すことが、日米が真の同盟関係に成るための一歩です。
残念ながら、今年で先の大戦から72年、冷戦が終わって28年になりますが、未だに日本はアメリカのよる占領政策の延長線上でしか議論ができないのです。トランプ氏の核武装容認論を契機に、自分の国は自分で守るという当たり前のことを議論すべきです。その時こそ日米が英米と同じく対等の同盟関係を築くことができるのです。
日露新時代の誕生
自民党京都府連政経文化懇談会を開催し、多くの皆様にご来場いただき誠にありがとうございました。
昨年暮のプーチン大統領との会談がどうなったかは、この原稿を書いている時点では明らかでありません。しかし、安倍総理とプーチン大統領とは世界の首脳の中でも、政権基盤が長期的に安定しているという点では抜きん出ている存在であることは間違いありません。今までは日本の総理大臣が政権交代も含め毎年変わり続けていたため、両首脳が胸襟を開いて話す環境にありませんでした。政権奪還以後5年目に入り、内閣支持率も5割を超えています。今こそ平和条約締結に向けた協議に入るべきです。
勿論、領土問題はその後も交渉をし続けねばなりませんが、領土問題が解決しなければ平和条約を結ばないでは両国にとって不幸です。敗戦により日本はアメリカに占領されました。サンフランシスコ条約で本土の主権を回復しましたが、20年後にようやく沖縄が返還されました。この例の様に、日露平和条約締結後に北方領土返還ということもあり得るべきです。まずは、先の大戦後の不正常な日露関係に終止符を打つべきです。
かつては冷戦体制のため、日ソ交渉はアメリカ側にいる日本にとっては大変高いハードルがありました。今は既に冷戦も終わり、トランプ氏はプーチン大統領とも個人的に親しいとも言われています。日本が日露平和条約を結ぶ大きなチャンスです。
占領体制と冷戦体制に終止符を打て
トランプ大統領の誕生は、これまでの既成の枠組を一挙に変えることになるでしょう。暴論や極論も多々有り不安も付きまといますが、今こそ日本は戦後を乗り越えるチャンスなのです。日本でも政治家は、占領時代や冷戦時代の常識や枠組に縛られず、本音でものを言わねばなりません。少なくともつまらぬ言葉狩りで政治家の議論を封殺している様では、日本はトランプ大統領を始めとする新時代の政治家に対抗出来ません。
今年もこうした思いで正論を述べて行きたいと思います。本年もよろしくお願い申し上げます。
瓦の独り言
-組紐と真田紐(似て非なるもの)-
羅生門の瓦
新年、あけましておめでとうございます。今年度も「瓦の独り言」でつぶやかせていただきます。
昨年は、「紐(ひも)」で明け暮れました。まだ上映中の「君の名は」で「組紐」が空前のブームです。また、NHKの大河ドラマ「真田丸」では「真田紐」が注目を浴び、京都市内の真田紐師・江南(和田伊三男氏)のお店では猫の手を借りたいほどの忙しさだとか。
この二つの紐を混同されている方が多いと思いますが、実は作り方も、用途も異なったものです。
「組紐」は三つ編みのように数本の糸を丸台などの道具を使って、斜めに糸を交互に組んでいくものです。一方、「真田紐」は機(はた)(織り機)を使い、経糸(たていと)と緯(よこ)糸(いと)で平たい紐状の織物を織っていきます。経糸に比べて太い緯糸を強く打ち込むことにより、経糸が見えず緯糸が畝のように見える幅の狭い(最狭で6ミリ程度)織物です。
歴史的にも異なり、「組紐」は奈良時代から宮中を中心に使われ、特に重要書類などを保管する豪華な蒔絵の飾箱にかけられたものです。今でも、祇園祭の「くじ改め」の時に使われる飾箱に掛かっているのが「組紐」です。また、御婦人方の着物の帯締め、紳士の羽織紐も「組紐」です。
かたや「真田紐」は真田幸村が考案したようなネーミングですが、実は源平合戦の時代にはすでに用いられていました。「平氏」の甲冑は宮中の組紐が使われており、「源氏」の甲冑には庶民が荷駄の括紐として使っていた「真田紐」が使われていました。馬上の合戦でも「平氏」の甲冑はゆるみが多く、堅固な「源氏」の甲冑の前には歯が立たなかったとか。戦国時代には刀の下げ緒やサヤなどに使われており、「真田紐」は庶民(?)の紐でした。関ヶ原の合戦以後、九度山に幽閉されていた時に真田幸村が生産し、行商人たちに持たせて各国の動きを探っていたことにより、日本中に「真田紐」が広まったのは事実です。
この「真田紐」を千家茶道の祖である千利休が茶道道具などの桐箱に使いました。彼は権威を嫌い宮中の飾箱や「組紐」をさけて、あえて白木の桐箱に庶民の「真田紐」を用いたのです。(この反骨精神は、瓦職人の楽吉左エ門に茶碗を造らせた気持ちと同じだ、と瓦は思っています。)今でも各流儀や宗家などの独特の文様の「真田紐」を「茶道具お約束紐」「習慣紐」と呼んでいます。
さて、われらが国政を信託している西田昌司参議員の発言の中には自民党とは異なった意見が時折見受けられます。一見では「野党と同じでは?」と思う節もあろうかと思いますが、実はこの「組紐」と「真田紐」のように根本的に異なっていることに気が付いておられるのは瓦一人だけではないはずです。本年度の瓦の目標は「似て非なるもの」の根底をつかむことに心がけますのでよろしくお願いいたします。