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第96号

2018年10月25日発行

ドイツ・デンマーク海外派遣報告

参議院議員 西田昌司

ドイツのインダストリー4.0とは

ベルリンのブランデンブルグ門の前にて

ドイツはインダストリー4.0と呼ばれる第4次産業革命を目指す産業政策を推進していることでも知られています。これは、第1次産業革命は18世紀の後半イギリスから始まった蒸気機関の利用による産業の自動化、第2次産業革命は20世紀初頭の電力の活用、第3次産業革命は、1980年代以降のコンピュータの活用による自動化と定義した上で、第4次産業革命はインターネットでモノを繋ぎAIがそれを自律的にコントロールする、究極の自動化を目指すものです。
 この背景にあるには、Google、Amazon、Facebook 、Appleなどの米国のインターネット企業の猛威に対抗するため、ドイツの製造業の競争力を更に強化しなければならないというドイツの強い危機感の表れでもあります。

日本のソサエティー5.0とは

 実は、日本でもドイツと同様の背景から、ソサエティー5.0が提唱されています。5.0としたのは、狩猟社会を1.0、農耕社会を2.0、工業社会を3.0、情報社会を4.0とした上で、これに次ぐ第5の新しい社会を「Society 5.0(ソサエティー5.0)」と名付けたのです。具体的な実現方法として、日本版インダストリー4.0ともいえる『コネクテッドインダストリーズ(Connected Industries)』が経済産業省より提唱されています。少子高齢化による労働力不足をインターネットとAIの活用により活路を見出そうとしているのです。

ベルリンでの視察

ポツダム会談の行われた建物 スターリンを招くために赤い星型の花が植えられている

最初の訪問地であるベルリンでは、ドイツ工学アカデミーのカガーマン元会長と会談をしました。カガーマン元会長は、ドイツのインダストリー4.0の提唱者で産業界の重鎮でもあります。「インダストリー4.0は究極の産業効率化であり、日本もソサエティー5.0を掲げ同様の政策を推進しています。これは人口減少社会に対する備えです。ドイツも少子化が問題と聞いています。その意味でもインダストリー4.0は重要ですが、移民政策はこうした効率化政策と逆行するのではないですか」という私の質問に、苦い顔をしながら「それは本質的な質問ですが、インダストリー4.0は移民政策とは関係なく、産業政策として必要なものなのです」と答えられました。

移民政策を巡り社会が対立

 実は、ドイツは中東からの大量の移民を巡り、社会が混乱対立しているのです。第2次大戦後、ドイツは東西に分断されました。その中で西ドイツは日本と共に、敗戦国にもかかわらず経済大国へと発展していきました。その陰には、敗戦による分断により衰えた国力、特に労働力を補うため、積極的にトルコなどからの移民を受け入れてきた背景があります。その結果、現在のドイツは人口約8200万人の2割近くが移民だと言われています。
1990年に東西ドイツは統一されると、旧東ドイツの国営企業の破綻整理により大量の失業者が溢れ出します。これによりドイツの労働環境は一変しますが、これは統一のコストとして受け入れざるを得なかったのです。
 一方で、冷戦後は中東などで相次ぐ紛争が起き、これに伴い大量の難民が発生しています。2015年には100万人を超える移民をドイツは受け入れています。EUの誕生により、 ヨーロッパが1つになり、人口5億人を超える巨大な市場が誕生しました。また通貨がユーロに統一されたため、ドイツはかつてのマルクより有利な条件で輸出ができるようになりました。その為、EU内で1番得をしたのはドイツだと言われています。そうした批判を避けるためにも、ドイツは移民の受け入れを継続せざるを得なかったのです。
しかし、移民の数が2割にも達するとなると、「言葉や文化の違いだけで無く、移民により職が奪われたり給料が低く抑えられている。移民を止めるべきだ」という右翼政党が台頭し出しているのです。
 2017年9月の連邦議会選挙の結果、かつては支持率が7割以上あったとメルケル政権の連立与党のキリスト教民主・社会同盟と社会民主党の議席は激減し、移民廃止を訴える政党が第三勢力に躍進しています。EUの覇者となったはずのドイツでも、移民をめぐり社会は大混乱しているのです。

職業教育の充実と中小企業の支援

 こうした状況に中、移民や失業者を社会で受け入れるためにも、職業教育を充実しなければならないということが言われています。マイスターという言葉がある様に、元々ドイツは職人などの生産現場の責任者の地位が高く評価されてきました。
 インダストリー4.0が進むと産業の効率化により、既存の職業の雇用数は必然的に減少し、失業者が増えることになります。こうした人をもう一度大学などで再教育をして、今後必要となる新たな職種の担い手となる再教育、つまり一般の大学生だけでなく、一旦社会に出てから再教育するという、教育の二元化をドイツでは目指しているとのことです。
 日本も中小企業の役割は大きいですが、ドイツはそれ以上です。中小企業こそ、革新的技術の主人公だと認識されています。特に事業を始める際の資金援助も手厚く、革新的技術を持つ人が事業化しやすい環境を作っています。こうした事は、今後日本でも積極的に取り入れていくべきだと強く感じました。

メディコンバレーとは

アメリカ・カリフォルニアのハイテク産業の集積地、シリコンバレーを念頭において命名されたメディコンバレーとは、デンマークのコペンハーゲンおよびスウェーデンのスコーネ地方に広がるバイオテクノロジー・医薬・医療関連企業の一大集積地のことです。
 これを統括するのがメディコンバレー・アライアンスで、たった5人のスタッフですが年間30件ものイベントを行うなど、企業間のネットワーク作りの援助をしています。この地域にはデンマークとスウェーデンの生命科学産業の約6割の企業が集積しているため、企業相互のネットワークが構築されれば、それが新たな投資や開発を生み出す元になっているとのことでした。
 生命科学の分野ではこの20年の間に合併買収が繰り返し行われてきましたが、デンマークでは、自国の企業が米英の企業に乗っ取られない様に、株式を財団化する事で防いできたそうです。一方スェーデンでは、そうした措置を取らなかったため米英企業に合併買収されてしまったということです。
 デンマークは面積では、スウェーデンやノルウェーより小国ですですが、元々は北欧三国の盟主だったと自認しており、国際的企業も多く存在していますが、流石に商売上手だと感心致しました。

マックス・プランク協会への視察

ハンブルグ総領事公邸前にて 加藤総領事とともに

マックス・プランク協会は非営利の独立研究機関として、世界的に有名な物理学者マックス・プランク(1858-1947)にちなんで1948年に設立されました。同協会は、基礎研究を専門に行う83の研究所(うち5研究所と1支部はドイツ国外に所在)で構成されており、ミュンヘンに本部を置いています。
 研究分野は自然科学、生命科学、人文科学及び社会科学にわたっています。設立以来、17人のノーベル賞受賞者を輩出し、国際的にも高く評価されています。
 約17,000人の職員のうち5,470人が研究者で、そのほかに4,500人の奨学生と客員研究員が所属しています(2013年)。年間予算は約15億ユーロ(2013年)で、出資比率は連邦政府38.9%、州政府38.9%、その他22.2%です。
 130円/1ユーロで換算すると約2000億円もの予算で、基礎研究、特に未知の分野の研究に特化して研究支援をしています。日本の理化学研究所とも関係が深いとの話でしたが、理研の予算が年間約1000億円弱ですから倍の予算規模で遥かに凌駕しています。
 マックス・プランク協会の特徴は優秀な人材を広く海外から集めていることです。ドイツ人の研究者は40%以下で、国際性が非常に高いのですが、世界から優秀な研究者を集めることにより、特許が取れればそれは協会、即ちドイツのものとなり、国益に資するという戦略です。

研究者の裾野を広げるべき

 「10年間何をしてもいいから、自分のしたい研究をしてみないか」同協会のこの言葉は世界中の研究者にとって大変魅力的な言葉です。日本においては、理研などの特定の機関には研究開発予算が注ぎ込まれていますが、研究者の裾野を広げるためには、地方の国立大学等の予算拡充をしなければなりません。
 しかし、現実には国立大学は法人化され、民間企業のような経営感覚を求められ、更には大学で成果を上げることが求められるようになりました。その結果、基礎研究のようにすぐに成果の出ない部門の研究が排除されがちになっています。また、任期の限られた特任教授のような制度では、長期的な研究も保証されません。優秀な研究者を育てるにも、成果主義がそれを阻んでいるのです。
 また、これは理科系の学部だけではなくて、文化系の学部でも同じことが言えます。文化系では、資格を取ることが大学の看板のようになり、真実の学問を追求すべき大学本来の姿から程遠くなりつつあります。これも悪しき成果主義の影響です。
 ドイツのように、社会人の再教育もこれからの大学には求められます。その成果として資格の取得は、最も分かりやすいのは確かです。しかし、その一方で大学の原点である真実を求める心を養うことが忘れられてはなりません。行き過ぎた成果主義にはしる事のないよう肝に銘じなければなりません。
 今回の視察では、その他にも様々なことを学びましたが、しっかりと日本に反映させたいと考えています。

樋のひと雫
〈ボリビア通信〉

羅生門の樋

 今、ベニー県のトリニダという処にいます。アマゾン川の源流が近くを流れ、オリエンテと云われる熱帯の地方です。ここで全ボリビアの教育関係の全国大会があり、招待されました。しかし、熱帯という雰囲気はなく、朝夕は涼しくモト・タクシー(バイクタクシー、熱帯地方では乗用車より一般的です)の運転手などは防寒着を着込んでいます。これも異常気象の現れでしょうか。
 昨年の今頃のコラムでは、ベネズエラが300%近くのインフレで、商店には品物が無く、路上強盗や殺人の増加で治安の悪化が著しいと書きました。今では、これらの状況を知らせてくれた友人とも連絡が取れません。家族ために国を出たいと話していましたが、無事に何処かに居ることを願うばかりです。
 世界通貨基金(IMF)は今年末までのインフレ率を3万%と予測しています。ちょっと想像もつかない通貨の下落です。日本で云えば、3万円が1円になるのですから、500円のコーヒを飲むのに1500万円が要ることになります。まあ、物が無いのですから、飲めるかどうかわかりませんが…。マドゥーロ政権は十万単位で通貨の切り下げを行ったということですが、いつ紙くずになるとも知れない通貨を誰も欲しがらないでしょうね。
 ところで、テレビを見ていて気になることがあります。昨年の映像では、国外脱出する人々は小ざっぱりとした上着で大きな荷物を持っていました。ちょうど我々が小旅行に行くような服装です。しかし、最近のニュースでは、かなりやつれた表情でTシャツの上に薄汚れたブルゾンを羽織った若者や幼子を抱えた家族が連日映っています。昨年までの脱出組はある程度の余裕を感じられましたが、昨今の映像からは、切羽詰まった様子が伺えます。今までは、パスポートを持たない人間を入れていなかったペルーも、最悪の人道危機(la peor crisis humanitaria en América Latina)が迫っていると云う認識から国境を開きました。今や、南米の多くの国が「ベネズエラの経済難民」を受け入れています。(こんなところは、共通言語を話すという強みでしょうか。日本人が他国に移民するという緊張感とは違ったものがあるのでしょう。)政権の失政と経済の混乱から逃れてきた人々を「難民」と呼ぶべきか否かは分かりません。しかし、日々の生活を破壊され、命の危険と隣り合わせの生活から逃れてきた人々に、安定した場所を提供するとう話を聞くと何かホッとした気持ちになります。
 しかし、現大統領のマドゥーロは相変わらずの演説好きで、支持者だけの会合を連日開き、現実味のない夢を語り、満面の笑みを浮かべ拍手を得ています。隣国コロンビアとの危機を煽り、自らの統治能力の無さから国民の目を逸らそうと躍起の様子です。己の失政への国民の不満を外に向ける。為政者の昔からの常とう手段です。連日テレビに流れる演説の姿を見ていて、解りやすいと言えば、これほど解りやすい人間も稀だなと感心しています。

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