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おわりに ―陰陽思想こそMMTの本質―

資産の陰には必ず負債がある
 MMTの主張を一言で言えば、誰もひとり勝ちすることができないということです。誰もが、資産や所得を多く持ちたいと思います。しかし、自分の資産や所得の裏には、必ず誰かの消費や投資と負債があるのです。これは理屈ではなく、事実なのです。
 自分の所得や資産を大きくしようと思えば、自分も消費や投資をし、また、負債を背負って投資をすることが、社会全体の経済を大きくし、その結果、自分の所得や資産も増えるのです。
 MMTは、貨幣の正体は負債であるという事実から出発した理論です。事実上の通貨である銀行預金も、銀行にとっては負債です。また、借り手の存在が無ければ、銀行預金は増えません。私たちにとって大切な通貨や銀行預金という資産は、誰かの負債が増えることにより、供給されるのです。この様に経済社会は資産だけでは成り立たないのです。負債と資産は常にセットで存在しているのです。このことは、陰陽思想を知っている日本人には理屈抜きに納得できるのではないでしょうか。
 陰陽思想とは、宇宙から人間関係まで森羅万象を陰と陽のバランスで考える中国を源流とする哲学です。それは物質を構成する陰陽二元の要素が互いに影響し合い変化していくことが、森羅万象の実態と考えるものです。経済活動だけでなく宇宙全体を視野に入れた大きな思想です。これは、自然の変化や人の栄枯盛衰を無常として感じてきた日本人には、ストンと腹に収まるでしょう。この様にMMTには陰陽思想に通じるものがあるのです。

現実を直視しない既存の経済学
 ところが、今までの経済学はこうした人間社会の本質を一切考慮して来ませんでした。マルクスは、資本家の搾取が経済の本質と考え、社会を革命することが目的になりました。近代経済学は利率と経済成長率との関係を数式で表し、数学的アプローチを見出しましたが、数字で表せないものは無視をして体系を構築してきました。どちらも、自分の主張する考えに都合の良いように事実をつまみ出して示したに過ぎません。彼らのアプローチの仕方では、現実社会を正しく理解することはできないのです。

MMTは事実に基づく経済学
 MMTは、これらの考えとは全く逆のアプローチから始まっています。資本家の搾取から労働者を守ると言う思想や、数学的合理性に現実を合わせることではなく、現実の経済活動の事実に着目し、その事実をもとに経済活動を再解釈したのです。
 事実をもう一度確認しましょう。経済活動に不可欠な通貨は中央銀行の負債です。しかし、現実の経済活動では、銀行預金が事実上、通貨として使用されています。そしてまた、銀行預金も銀行にとっては負債です。銀行預金は、銀行が貸付をすることにより増加します。誰かが銀行からお金を借りることによって、つまり、誰かが負債を持つことにより、世の中全体の預金が増えるということです。逆に言えば、誰もが借り入れをして投資をしなければ、預金は増えず経済は回らないということです。
 不況になると経済の先行きが見えず、誰も借り入れをしてまで投資をしようとしません。返済できなければ、元も子も無くなるからです。むしろ、できるだけ投資や消費を控えてお金を貯め込もうとします。しかし、それが経済を益々不況に落とし込むのです。
 世の中に流通する通貨の量をコントロールすることは、実は負債の量をコントロールすることなのです。不況の時こそ、誰かが負債を引き受けることが必要なのですが、民間企業には返済能力に限りがありますから、負債を引き受けることができません。これが、大恐慌をもたらす原因です。
 

通貨と国債は返済不要の債務
 そこでMMTの登場です。MMTが示した現実は、貨幣の本質はモノではなく、中央銀行の負債であるということです。かつてのように、「金」との交換を保証していた兌換紙幣ではなくなった現代においては、中央銀行は「金」を保有することなく、無制限に通貨を発行することができるのです。通貨は中央銀行の負債である。このことは誰もが知る事実です。
 通貨は中央銀行の負債ですが、それを返済してくれと言う人は誰もいません。仮にそれを求められれば、日銀は差し出された一万円札を引き取り、新しい一万円札に交換するでしょう。これは、古い負債が新しい負債と交換されただけのことです。
 同じことが、国債についても言えるのです。国債は政府の負債ですが、その償還には、日銀券と同じく「金」を用意する必要がありません。古い国債を回収して、新しい国債を渡せば良いのです。これは理屈ではなく、事実なのです。つまり、日銀券や国債は、事実上返済不要の負債なのです。
 このことが分かれば、政府の財政政策には金額的な制限がないということが理解できるはずです。既に日銀は、異次元の金融緩和を行っています。日銀は通貨を発行することにより、いくらでも資産を買い入れることができるのです。同じように、政府も国債を発行することにより、いくらでも財政出動をすることができるのです。

不況対策には金融より財政
 日銀が日銀券と言う負債を発行し、銀行などが保有する国債などの資産を買い取ることにより、その代金として通貨が供給されます。同じく、政府が国債という負債を発行し予算を実行することにより、福祉予算の場合には便益が、公共事業の場合には道路などの資産が、国民に提供されます。それと同時に、その対価として通貨が国民に提供されることになるのです。
 日銀は、銀行にしか通貨供給ができません。実際に通貨が市場に出るには、誰かが銀行から借り入れをしなければならないのです。一方、政府の国債発行による予算執行は、直接国民に通貨と需要を供給することができるのです。
 以上の現実を考えれば、不況対策として効果があるのは、政府の財政出動であることは言うまでも有りません。にも拘らず、財政再建を口実に、この20年間、まともに財政出動はされて来なかったのです。一方で、消費税は二度も値上げされました。国債の本質が何かということについての根本的無知が、日本をデフレの底に落としたのです。
 コロナショックによる令和大不況が、目の前に押し寄せて来ています。今度この対応を誤れば、日本は二度と立ち直れないでしょう。そうならないために是非とも、国債とは何かを正しく理解していただきたいのです。