MMTの主張が正しいなら税金は要らない
これは完全なる誤解です。MMTが主張しているのは、財源は税金だけでなく国債の発行も考慮すべきということです。そもそも、税金だけで予算を組むと言うことは、政府は通貨供給を一切していないという意味です。国債を財源として予算を組むと言うことは、国債発行をして政府が負債を有することにより、その分だけ民間に貨幣を供給していると言うことです。
建設国債の場合には、公共事業等の支払い代金を受けた人に通貨が供給されることになります。工事代金を受けた人には、工事の売り上げという収益を手にすることになります。公共事業が実行されたことにより、インフラという財産が社会に作られることになり、国民は便益を受けます。
赤字国債の場合でも、結果は建設国債と同じです。赤字国債を財源に財政出動されることにより、社会保障費の給付を受けた人に通貨が供給され、また、便益を受けることになります。建設国債、赤字国債を問わず国債が発行され、それを財源にして財政出動された分だけ、国民に通貨供給がされることになるのです。
もしも、税金が無く、国債発行だけで予算を組めば、政府は通貨供給を一方的にするだけで、その回収が全くできなくなります。それでは社会がインフレ化するのは必定です。社会が過度のインフレに陥らないためにも、富の集中を避け、ある程度均質な社会を作るためにも、税金は絶対に必要なのです。
MMTで国債の発行が過ぎれば、ハイパーインフレになる
これも全くの誤解です。そもそも、国債発行が過ぎてハイパーインフレになった国はありません。世に言うハイパーインフレは、戦争や革命により工場などの生産設備や道路や橋などのインフラが破壊され、極度の供給力不足に陥り起こるのです。戦後の日本はその典型です。
日本の戦後のインフレは大量に国債を発行して、ハイパーインフレになったと言われていますが、それは事実誤認です。真の原因は、終戦直前の大都市への空襲による生産設備の破壊により、物資の供給が極端に低下したからです。その上、敗戦により外地から一年で五百万人もの引上げがあり、需要の急激な増加がありました。さらに、終戦直後から昭和25年まで、国家予算の10%~30%がアメリカ軍の駐留経費を終戦処理費として負担させられ、事実上、戦後の復興はできませんでした。
また、昭和21年には財産税が課税され、国民所得の250%にもなる国債を全て償還させられました。国民から財産を取り上げて復興できるはずがありません。インフラ再生に手が付けられたのは、昭和25年以降であり、これが極端な供給力不足を生じさせ、ハイパーインフレが発生したのです。
また、ワイマール体制下のドイツは、天文学的な賠償金の支払要求のため、金が流出し、兌換紙幣のため、マルクの通貨の信認がなくなり、ハイパーインフレになったのです。
また、ジンバブエの場合は、革命により白人を追い出したため生産設備の稼働ができなくなり、供給力が極端に低下したため、ハイパーインフレになったのです。
このように戦争、革命などにより通常の政府の行うべき政策ができなくなる、言わば無政府状態がもたらしたもので、現代の日本の様な民主主義国家では有り得ません。
MMTは解放経済では通用しない
MMTは国内だけで通貨が流通している閉鎖経済では通用しても、現実の社会は海外との取引がある。国債発行で公共事業などをしても、それにより供給した通貨が海外に投資されれば、MMTの効果は無効になるという主張です。
例えば、国債発行により、公共事業100が発注され、資材など50を輸入する場合には、確かに収益と資産(外貨預金)は海外へ移転します。これにより、GDPを押し下げることは事実ですが、公共事業100より大きくなることは有り得ません。海外送金があったとしても、それを差し引いてもGDPは必ず増大することになるのです。従って、解放経済においてもMMTは通用します。
それでもMMTをどうしても認めたくない人は、次の様なことを言います。
a財政出動をすればインフレになり、利率より高くなれば、実質金利低下で円安になり、資源やエネルギー、食糧を輸入に頼る日本はこれらのコストが上がる。円安が続けば、国民生活は破綻する。
b財政出動で景気が良くなれば、円高になる。円高になれば、輸出が減るから財政出動は無効化する。
しかし、これらの意見には次の通り反論できます。そもそも、aの主張はハイパーインフレ論を前提としていますが、事実は先に説明した通り、ハイパーインフレにはなりません。しかし、多少のインフレは望むところですが、彼らの言う通り、過度なインフレになれば、変動相場制を採用しているため当然円安になります。仮に円安になれば、その分輸出が大幅に伸びることになるでしょう。そうすると日本は景気が良くなり、今度は円高に為替は変動することになります。
何れにせよ、変動相場制を採用しているため、海外取引は自動的に調整され、利益の一方的な流出はないのです。
bの意見ですが、確かに景気が良くなれば円高に向かうでしょう。これにより、輸入品の原価が下がり、益々景気は良くなるでしょう。これにより、輸出企業に打撃はあるでしょうが、日本は輸出依存率は15%程度であり、圧倒的に内需国です。そのため、円高になれば輸入品は下がり、国民生活は逆に豊かになるため消費も増えるのです。内需が増える方が外需が減るより大きいため、財政出動が無効になることはないのです。また、輸入品の購買が増え、輸入額が増えれば、世界経済にも貢献できるわけで、先進国としての責任を果たすことができるのです。